記事(一部抜粋):2005年11月掲載

経 済

噂される「ペイオフ」第1号

北海道のM信組、九州のK信組とM信組、あの新設銀行

「金融庁と預金保険機構は9月16日(金曜日)にペイオフ(破綻金融機関からの預金払い出し保証額を元本1000万円とその利息に限る措置)のシミュレーションを実施したようだ」(金融庁関係者)という。都内の信用組合を対象に、ペイオフを実施した場合の手順について確認したもので、俗に「金・月処理」といわれる処理方法である。
 具体的には、金曜日の営業終了後に当該金融機関が金融庁に破綻を申し出る。これを受け、金融庁は業務停止命令を発動する。同時に預金保険機構が翌週月曜日の営業開始前までに預金者の名寄せ作業を行い、営業開始とともに預金の払い戻しに応じるという手順である。この「金・月処理」がスムーズに遅滞なく行われるかが検証されたと見られている。
 金融庁がペイオフのシミュレーションを実施したことで、すぐさま実際にペイオフが行われると考えるのは早計であろうが、少なくとも金融庁がペイオフを視野に入れはじめたことは確かだ。
 そもそもペイオフ実施が本格的に議論され始めたのは1994年の東京協和、安全の2信組の経営破綻からである。当時、大蔵省と2信組の監督を行っていた東京都が共同で作成したペイオフのシミュレーションの資料も残っている。しかし、このシミュレーションの結果、行政が出した結論は、ペイオフは時期尚早というものであった。そしてその妥協策として創設されたのが「東京共同銀行」(現在の整理回収機構)であった。預金者の自己責任原則は適用されず、ペイオフは先送りされたわけだ。
 背景にあったのは、当時の脆弱な金融システムと深刻な不良債権問題であった。未整備な名寄せを含め、ペイオフを実施する環境下になかったということである。公的資金の関与をはじめ、セーフティーネットが整わないなかでペイオフが実施されればどうなるか。金融機関の破綻が取引先や他の金融機関の破綻に連鎖し、それがとめどもなく広がっていく「システミック・リスク」の可能性が高かったといっていい。
 その後の金融危機を経て、2004年4月から、定期性預金についてペイオフ凍結が解除され、今年4月からは流動性預金を含め全面解禁された。また、システミック・リスクを回避する受け皿として、ゼロ金利の「決済専用預金」も導入されており、各金融機関の名寄せも金融庁検査を通じて徹底されている。
 大手の不良債権問題がほぼ解消し、金融システムは、これまでの有事モードから平時モードへと落ち着いてきている。
 ペイオフを実施できる環境は急速に整いつつある。預金者に自己責任原則を植えつけるためにも、ペイオフはもはや避けて通れないハードルとなっている。
 今回、都内の信組を対象にペイオフのシミュレーションを実施したのは、あらためてペイオフが実際にワークするかどうか、「金・月処理」がスムーズに行われるか、名寄せは問題なく預金の払い出しに混乱は生じないか、などが検証されたとみられる。
 一方、今後の焦点は、はたしていつ、どこの金融機関を対象にペイオフが実施されるかに移っていく。その際、カギを握るのは金融検査の動向ということになろう。
「金融庁の前回検査から間が開いている中小金融機関がターゲットとなる可能性が高い。それだけ入検の可能性が高いためである」(金融関係者)
 金融庁が検査に入って債務超過が明らかになった場合、再編相手が見つからなければペイオフにもっていくしかない。金融庁は検査に入る段階で、ペイオフを念頭に置いた政治判断を迫られることになる。(後略)

 

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