経 済
ペイオフは忘れた頃にやって来る
1カ月で10%以上も預金残高を減らした信組【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
B 景気回復ムードが漂う中で、世の中からはペイオフという言葉が消えかけている。4月まで「ペイオフ解禁か」と騒いでいたのがウソのような状況だ。しかし、日本の金融機関のすべてが健全になったわけではない。大手銀行でも、まだ公的資金の返済が終わっていないところがある。公的資金を除いたり、税効果会計による繰延税金資産による資本嵩上げを省けば、一挙に過少資本に陥ってしまうのが現実だ。
C 3年前、信金、信組への一斉検査が行なわれた。ペイオフ解禁のための環境整備作業といってもいい一斉検査だった。その過程で信金、信組の業界では合併が相次ぎ、経営内容が悪い中小金融機関がずいぶんと姿を消した。しかし、それで問題が完全になくなったかといえば、残念ながら答えはノーだろう。
A そう、答えはノーだ。金融問題は完全に解消したとはいえない。とりわけ信組は心許ない。あの一連の検査が終わったあとでも、当局からは「完全に終わったとはいえない」という本音が漏れていたからね。
B その後、景気は次第に回復してきたとはいうものの、中小・零細企業は今も厳しい状況が続いている。景気回復は大企業や中堅企業の領域に限った現象ともいえる。
C そうだね。地方ではいまだに倒産が続出している。中間決算期末を控えて、バタバタしている地銀もある。
A 地銀など地域金融機関はリレーションシップバンキング政策の中で、不良債権の最終処理が大手銀行のようには進捗していない。金融機関は自分のハラのなかに不良債権を抱え込んでいる。そうした不良債権先企業が一段と経営悪化すれば、いつまでも抱えこんでいるわけにはいかなくなる。そういうタイミングで今、財務局検査が各地で行われている。
B 信組などの場合、地方の名士や政治家などが実質的な経営者である場合が少なくない。そうした金融機関の中には、経営状況が悪くても金融検査に抵抗して逃れ続けたところがあるはずだ。その後、経営状況が改善しているなら、まあアンフェアでも目をつむることはできる。しかし、経営状況が一段と悪化していたら、当局も目をつむり続けることはできない。
C 今回の衆院選挙で、中央の政治構造は大きく変化した。地方にも当然影響は及んでいる。これは、金融処理については絶好のタイミングということにならないか。
A 金融庁や預金保険機構は、ペイオフ解禁に向けて、預金者の名寄せ体制を整備したことになっている。金融機関側にも名寄せ作業の体制整備を促した。その意味では、ペイオフ実施の体制はできあがっているという言い方はできる。
B そうでもないだろう。現実は、それほど甘くはない。名寄せ体制は不十分だ。
A だとしたらペイオフなんて実施できないよ。
B いや、問題は規模だ。実際問題としてペイオフを実施できるのは、ごく小規模の金融機関だ。他の金融機関への影響も無視できないからね。いま世の中は平和そのものだが、一度ペイオフ実施となれば、再び「つぶれる金融機関はあそこだ」といった報道が相次いで、世の中が騒然となるに決まっている。
C それはそうだ。従来の破綻処理とは違って、預金者の預金が犠牲になるわけだから、従来とはレベルが異なる騒ぎになるだろう。
A そうすると、名寄せ作業はもちろんのこと、波及効果という面でも小規模金融機関しかペイオフはできないという理屈になる。
B そういうこと。ペイオフの対象になるのは、店舗数などが少なくて、預金者の数も限られているようなところだ。
C その条件が当てはまる金融機関は信金では姿を消した。なにしろ、業界あげての再編で合併が相次いだからね。しかし、信組では信金ほどの再編は進んでいない。いまだに、きわめて小規模の信組が残っている。
A 要するに、信組のペイオフが実施される可能性は十分あるということ?
B 否定はできないだろう。金融庁も日銀もペイオフ解禁に際して、今後、金融破綻がないというわけではない、と言っている。これはウソではないと思う。
C 実は信組の中で、この夏場に預金が流出したところがある。1カ月で10%以上の預金が流出した。ペイオフは忘れ去られているようで、実際には確実に預金が逃げるような状況が一部の金融機関では起きているということだ。
A そういえば、高利の定期預金を売り始めた信組もあると聞いた。
B そう。1年定期で1%の金利を提示している。かつての金融危機のさなか、経営悪化した信組が高利預金で資金繰りをつけたことがあったけど、それを思い出させるような話だ。預金者はよくよく調べたほうがいい。
(後略)