記事(一部抜粋):2005年9月掲載

社会・文化

「大証攻撃」村上ファンドの狙い

「義」を「利」に転換する村上マジックの限界か

 村上世彰氏は市場と企業の「歪み」をビジネスに転じる人である。
「ものいう株主」として知られ、「総会屋」が絶滅の危機に瀕している今、彼らが担ってきた「資本市場の不備の指摘役にして企業不祥事の監視役」という唯一の存在意義を、村上氏は肩代わりしている。
 数少なくなった現役総会屋が、村上氏についてこう不満を漏らす。
「東大卒の元通産官僚なら正義で、『総会屋』のレッテルを貼られたワシらは『悪』なんかい。企業の揚げ足を取ってカネにするのは同じじゃないの」
 こうした見方は証券界にもある。「インテリ総会屋」と村上氏が揶揄されるゆえんだ。
 ただ、明らかな違いは、「総会屋」が企業への揺さぶりを通じて、自分たちのビジネスチャンスを広げようとするのに対し、村上氏は増配や自社株買いを企業に要求、株主全体に利益を還元すること。彼我の差は大きく、先ほどの総会屋の批判は考慮に値しない。
 もたれあいの法人資本主義に異を唱えた昭栄、委任状争奪戦にまで持ち込んでワンマン社長の不動産投資を止めさせようとした東京スタイル、株式時価総額の大きなフジテレビを支配していた小資本のニッポン放送など、村上氏が攻撃を仕掛けたがゆえに「歪み」が露呈、修正を余儀なくされた企業は少なくなく、増配やキャピタルゲインで得た「村上ファンド」の利益は、村上氏の「ファイト」に対する「応分の報酬」だった。
 マイクの前での舌鋒鋭い主張と、東大―旧通産官僚という華麗なる経歴は、村上氏の本業を忘れさせるが、そもそも氏は投資ファンドの主宰者であり、その目的は投資家のために利回りを上げることである。
 したがって、たとえ支配権を握るような筆頭株主になったとしても、経営そのものにタッチする気もなければ企業運営のノウハウもない。
 攻め立てた企業からどれだけ譲歩を引き出せるか、そしてマスコミ報道により当該企業の株価がどれだけ上がるか――これだけが村上氏の関心事だから、騒動の最中にあってもしたたかに「売り抜け」を計算している。
 そんな計算高さを持つ村上氏が、このところ最も熱心に攻撃を仕掛けているのが大阪証券取引所(大証)である。今年になって買い占めを進め、3月末に公表した大量保有報告書で10%の筆頭株主であることが発覚、以後、増配を求めるなど大証攻撃をエスカレートさせている。
 コンピュータなどの設備投資がかさむ証券取引所が、株式公開で資金を潤沢に用意しようとするのは世界的な流れである。大証に続き、東京証券取引所(東証)も上場準備に入っている。
 ところが取引所には、上場審査や不公正取引チェックなどの「公共性」がある。金融庁は、そんな「公共機関」でもある取引所が、買収のリスクにさらされることを快く思っておらず、規制部門を抱えたままでの東証の上場には慎重な姿勢を崩していない。 村上氏は東証に先駆けて上場した大証のその歪みを突いた。
 大証配当案の3倍近い2万円配当を要求、合わせて自らの取締役就任を求めた。大証は役員就任を拒否、配当の上方修正で株主総会を乗り切ったものの、さらに村上氏は要求を強め、金融庁に大証株の20%以上の取得認可を求めた。「公共性」のために、大株主は金融庁の認可を求められているからで、つまり村上ファンドは20%超を買い占めるつもりだ。
 ところが金融庁は、村上氏の申請を却下した。大証の持つ「公共性」を村上ファンドが損ねる恐れがある、というのがその理由。例えば、村上ファンドが出資した企業が上場する際、大株主の地位を利用、この企業の上場を優先しかねない、というわけだ。
 当然のことながら村上氏は、この決定に猛反発、「ファンドの投資先はほとんどが東証上場の企業。大証への新規上場を画策するなどあり得ないが、もし必要なら大証との間で、投資先企業を大証に上場させないという契約を結んでもいい」と主張、それでも認められなければ「行政訴訟も考える」と強気の姿勢を見せている。
 いつもながら、論理的には村上氏の方が正しい。東証の上場をためらうぐらいなら、なぜ大証の上場を認めたのか。そして、株式を公開している企業の株式取得に、制限を設けていること自体がそもそもおかしい。
 とはいえ、証券取引所も金融庁も「秩序」の側である。「秩序」は自分たちに逆らうものを、たとえ自らに誤りがあろうと許さない。そんな体制気質に、あえて挑戦する村上氏をいぶかる証券関係者は少なくない。(後略)

 

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