経 済
金融庁の権力地図に異変
選挙後に大幅な揺り戻し【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
B 三菱東京フィナンシャルグループは、第1次注入の際の公的資金をあっという間に返して、以後、公的資金を受けなかった唯一の大手銀行グループだ。その後、金融庁は公的資金を武器にして、大手銀行に対する介入を強めた。UFJは破綻寸前まで追い詰められたし、みずほも三井住友も金融検査で厳しくやられた。三菱東京だけが民間企業として金融庁と一線を画してきたといえる。裏を返せば、金融庁は三菱東京の経営への介入ができなかった。その意味で今回は、絶好のチャンスだったという言い方はできる。
C とくに佐藤隆文・監督局長にとっては絶好のチャンスだったといえるね。
A 佐藤氏は最近、「ポスト五味」の最有力候補と言われ始めている。来年に退任予定の五味廣文・金融庁長官の後釜候補というわけだ。しかし、残念ながら目覚ましい実績を残しているわけではない。UFJ問題は五味氏の功績ということになっているし、佐藤氏が監督局長として気勢をあげていた三井住友への金融検査は結局、大山鳴動して鼠1匹に終わった。西川善文社長を退任させたという見方もできないわけではないが、退任は西川氏があらかじめ予定していたことでもあった。佐藤氏は金融検査の終盤、検査局長の頭ごなしに検査官たちに指示を出していたという。「西川は許さない」などと発言していたとも金融庁関係者は言っている。そのテンションに比べると、検査結果が大したことなかったのは確かだ。
C つまり、次期長官になるには、何か実績を上げる必要があったというわけだね。
A 少なくとも金融庁の一部では、そのように囁かれている。その意味では、公的資金の縛りがない三菱東京をひれ伏せさせることは大きなポイントとなる。佐藤氏にとって絶好のチャンスだったわけだ。検査部門が東京三菱とUFJのシステム統合面での問題点を指摘していたのは間違いないが、それ以上に、高いテンションで合併延期を主張したのが佐藤氏だった。
B なるほど、その甲斐あって佐藤氏は高いポイントを稼いだことになるね。
A しかし問題も残っている。来年1月1日の満を持しての合併で、システムトラブルが発生したら、それこそ責任問題だ。正月3日間はATMが使えないため問題が生じる可能性は低いが、1月4日以降がどうなるか。もしトラブルを発生させれば、「金融庁が指示した合併延期でシステムトラブルが発生した」という見方をされて、金融庁の顔は潰れるだろう。佐藤氏の大きな汚点になる。だから来年の1月1日まで、金融庁監督局は、ことあるごとに三菱東京とUFJに対し、システム統合作業の報告を求めるなど圧力を掛け続けるに違いない。
B なんとも異様な話だね。システム統合のテストを繰り返すとしたら、それは銀行にとって大きな出費になる。ベンダー企業の社員を大勢駆り出さなければならないからね。担当セクションの行員たちは、夏休みどころか、年末まで土日の休みもないくらい忙しくなるだろう。
A それで実際に問題が起きなければ、金融庁、そして佐藤氏の手柄になるかもしれない。しかし問題は、ここにきて新たな不確定要素が浮上していたことだ。
B 9月11日の衆議院選挙のことを言ってるの?
A そう。衆院選の結果がどうなるかが大きな焦点だ。とくに伊藤達也・金融担当大臣の当落。伊藤氏は前回の衆院選では、小選挙区で落選している。比例で敗者復活したにすぎない。現職大臣の強みを勘案しても、今回も劣勢は明らかと言われている。
B 運よく当選したとしても、再び金融担当大臣になれるかどうかは分からないしね。落選すれば、もちろん何もなくなる。前回は竹中平蔵氏の下で副大臣として協力したことから、竹中氏が後任の金融相に強く伊藤氏を推薦したという経緯があったが、今回はそんなことはないだろう。伊藤氏は最近、竹中氏と距離を置くようになっている。郵政民営化問題でこれ以上、竹中氏と蜜月を続けると、自民党内での自分の立場が悪くなると考えたからだ。(後略)