経 済
やめたくてもやめられない
銀行の利益先食いビジネス【金融ジャーナリスト匿名座談会】
(前略)
C ところで畔柳氏は「UFJのいいところを三菱東京は学ぶべきだ」と言っているらしいが、それは評価していいと思う。実際、商売に対する熱心さはUFJ行員のほうがはるかに勝っているからね。
A 畔柳氏のそのスタンスは確かに間違ってはいない。ところが、各論に入ると、「あれ?」ということが起きている。たとえば収益志向の高さについてUFJを見習うのはいいとしても、商売のやり方という面では、UFJにはやりすぎのところがある。それを見習ったら、かえって三菱東京のよさがなくなってしまう。
B 実際に問題になりそうなケースはあるの?。
A ある。UFJは、中小企業向けに私募債、シンジケートローン、金利スワップなどのデリバティブをさかんに売り込んでいる。これは、アップフロントビジネスといわれるもので、翌年以降の利益を犠牲にして、今年の利益が上積みされるような性格のもの。要するに将来利益の先食いだ。たとえば、私募債などでは、翌年以降の金利を低くして、その分、すぐに手に入れることができる手数料を高く設定するとかね。
B あまり健全とはいえないビジネスだね。
A しかし、公的資金を注入された三菱東京以外の銀行には、公的資金の返済、そして、公的資金を受け入れた際に政府に提出した経営計画を実現するために、そういう利益の先食いもしないといけない、という考え方があるのは事実だ。
C そう。現にUFJも猛烈に先食いビジネスをやってきた。三菱東京はそれを見習い始めている。私募債の期間をUFJ並みに長期化させたりしているようだ。
B 三菱東京にはそんな商売をしてもらいたくないね。むしろ、三菱東京を見習って、UFJが行き過ぎた商売のやり方を是正してほしい。
C 公的資金は、金融危機を解消するためには必要な手段だった。しかし、それ以外では悪い副作用をもたらした。三菱東京は、本店を売却してまで公的資金を早期に返済した。これは正しい判断だったと思う。その正しい判断の下、ビジネス面では一定の健全さを保ってきたわけだ。経営統合を契機にその健全さが損なわれるようではいけない。
A 三井住友にしても、UFJにしても、アップフロントビジネスはやりすぎだと思う。いずれは将来利益を先食いしたツケが回ってくる。前年より高い利益を上げなければというプレッシャーがあるから、やめたくてもやめられなくなる。麻薬と同じだ。やめたら、利益がガクンと下がってしまうからね。
B そういう意味では、三菱東京はいま大きな岐路に立っているということか。一度深みにはまったら、抜け出せない。
C UFJでも三井住友でも、営業現場には「これはやり過ぎだ」と言っている行員が少なくない。しかし競争相手を考えれば、やらざるを得ないし、本部から与えられた収益目標を達成するにも、先食いビジネスを続けるしかない。
A 不毛な競争というしかないね。銀行の将来は暗いよ。
B 数年後には辞めてしまう今の経営者にとってはいいのかもしれないが、将来を担う中堅、若手にとっては決していい話じゃないね。
C 評論家とかアナリストとかいわれている連中は「銀行はもっと収益を上げなければいけない」と煽り立てるが、違和感を感じる。収益が大切なのは当然だが、それよりも健全なビジネスをすることのほうが重要だと思う。
A 畔柳氏は何かといえば「顧客重視」を強調する。「現場百回」という言葉も使って、営業現場がいかに大切か、現場の状況をよく知る必要がある、といったことを説いている。その考え自体は正しい。しかし三菱東京は本当にそういうビジネスを目指しているのか。アップフロントビジネスは現場をダメにするビジネスだ。UFJを見習うことは間違いではないが、見習うところをまちがっている。(後略)