(前略)
不適切な保険金の不払いは、旧明治生命側に発生しているが、当時、明治生命は、04年1月の安田生命との合併を控え、業績の伸長が至上命題であった。このため保険金の支払いを押さえることで、「費差益」を嵩上げしようとの誘惑にかられたように思える。「明治生命には、詐欺失効を徹底するための想定問答集が配布されていた」(関係者)という声もある。事実であれば同社のガバナンスが厳しく問われる事態だ。
こうした明治安田の不祥事を生保攻略の絶好のチャンス、と受け止めているのが他ならぬ金融庁ではないか――と金融界では指摘する。狙いは、金融庁が周到に準備している「金融サービス・市場法」の実現にある。
4月28日に開催された金融審議会第1部会。それまで議論されてきた「投資サービス法」に変わって、金融庁幹部から突然、「金融サービス・市場法」という聞きなれない法律名が飛び出す。そもそも証券取引法を中心として「投資サービス法」に組み直し投資家保護の徹底を図ることが目指されていたが、この枠組みをさらに進め、「金融サービス・市場法」では銀行法、保険業法も取り込み、貯蓄から投資への流れを加速させる基盤整備を図ろうというのだ。
この金融庁幹部の発言に慌てたのは、生保業界の代表として参加していた日本生命だった。「保険や預金が投資なのか。何の業法もないということならまだ考えられるが、保険業法がしっかりある」とすぐさま反論を展開。その後も日本生命の反対は徹底していた。翌5月19日の金融審議会第1部会では、日本生命の古市健取締役名で反対意見書が提出される。
《保険と投資商品の本質的な性格の違いを勘案せずに、金融商品・サービスを一律に横串で規制すべきとの考え方には、そもそも疑問があります。(中略)仮に、万一、商品の本質的な相違にも係らず、すべての金融商品販売・勧誘規制を横串で行うべきとの前提に立ち、そこに「保険」も含めるとするのであれば、少なくとも「保険」と同様の経済的性格を有する農業協同組合法等に基づくいわゆる制度共済や日本郵政公社による簡易保険についても、当然、こうした規制対象に含まれるべきと考えます。従って、保険業法だけでなく、農業協同組合法、消費者生活協同組合法、中小企業等協同組合法、簡易生命保険法等も加えて記載すべきであり、それらの記載のない現状の資料は、論理的な整合性がつかないものと考えます》
生保のこうした頑な蛸壺的な閉鎖的姿勢に対して、金融庁は内心、忸怩たる気持ちでいる。これは、金融サービス・市場法に限ったことではない。(後略)