(前略)本誌が前号でお伝えしたように、公正取引委員会が橋梁談合に調査着手したのは、公取委の権限強化を狙った独禁法改正の必要性を広くアピールするためだった。
3500億円の小さな世界ながら、橋梁談合には新日鉄、三菱重工業、石川島播磨重工業、住友重機械工業といった「財界本流」が名を連ねている。そして、独禁法改正に最も強く反対したのが日本経団連。昨年10月の公取委の立ち入り検査には、経団連を牽制する意思が間違いなくあった。
その思惑に検察は乗り、公取委の告発を受けた捜査は、公取委の期待をはるかに上回る大がかりなものとなり、想定外の日本道路公団にも踏み込んだ。
「道路公団はどうした。放っておくのか」
こう捜査現場に声をかけたのは、松尾邦弘検事総長だといわれる。
「松尾さんはUFJ銀行の検査忌避や今回の談合のように、癒着やもたれあいがまかり通る日本の企業秩序に危機感を持っている人。道路、橋梁の談合の巣となっている道路公団に手をつけろという指示は、ごく自然でしょう」(検察関係者)
談合メンバーは国交省も道路公団も同じ。システムは、鋼材使用量(実績)である程度、機械的に割り振る国交省発注工事と異なり、道路公団から橋梁メーカーに天下った元理事クラスが談合を仕切る。道路公団工事には、道路族大物議員や地元政治家が「天の声」を発することが多く、その調整には道路公団OBの方が適しているからだろう。
すでに大半の談合メンバーは、保釈を願って道路公団発注工事における談合の供述を始めており、事件化は時間の問題。都道府県発注工事にまで事件が波及する可能性は薄いが、鋼鉄製橋梁において不当利得を得ていた業界の大半の罪が、これで暴かれる。
ところで、大型橋梁には鋼鉄製のほかに、PC(プレストレスコンクリート)工法が用いられることが多い。強い力で引っ張った鋼材(ケーブル)を内部や外側に張り、圧縮力を加えて強度を増したコンクリートを用いる工法で、鋼鉄製より維持費を含めたコストが安く、橋梁工事での導入が広がっている。
このPC工法を採用した道路公団発注の橋梁工事における疑惑が浮上、こちらは警視庁捜査2課が内偵を始めており、「検察の道路公団談合捜査にメドがついたら、今度は警視庁が捜査着手するのではないか」(警視庁担当記者)と、いわれている。
またも道路公団。高速道路建設の予算獲得やルート選定で政界と結び、天下りを通じてゼネコンや橋梁業界と深くつながり、「政官業」の三位一体体制を堅持してきた組織ゆえ、ひとたび捜査当局に狙われると、あらゆるスキャンダルが飛び出す。
今回、ユニークなのはそれが「特許」をもとにしていること。飲食で官僚との関係を深めた業者が賄賂を贈って工事発注その他に便宜を図ってもらうというのが、贈収賄事件における一般的な構図だが、両者の親密な関係が、「特許出願」となって表れているのは初めてであり、業者の「官僚籠絡」の手口が複雑化していることをうかがわせる。
(後略)