記事(一部抜粋):2005年6月掲載

社会・文化

ライブドアの片棒担いだマスコミ

ホリエモンの窮地を救った「朝日」と「日経」

(前略)3月16日の『日本経済新聞』朝刊に、「ライブドア(ニッポン放送株を)49.8%獲得」「議決権50%超は確実に」の見出しが躍った。
《ライブドアは15日、保有するニッポン放送株が同日時点で議決権ベースの49.8%に達したことを明らかにした。三月末までに買収成功の節目となる50%超を確保することは確実な情勢。日本を代表するメディアグループの有力企業への敵対的買収が事実上、実現することになる……》
 ニッポン放送株の買い占め工作は当時、重大な局面を迎えていた。3月期決算企業の議決権を得るには3月25日までに株を取得して名義を書き換えなければならない。このためライブドアが残りの短期間に、なりふりかまわず買いあさるだろうとの思惑からニッポン放送株が急騰。3月14日の終値は前日比850円高の7150円、15日は350円高の7500円をつけた。出来高も先細り気味で「このまま急騰傾向が続けば、ただでさえ資金繰りに窮していたライブドアは一層窮地に陥っただろう」(市場関係者)。
 こうしたタイミングで、マーケットに影響力のある日経新聞が「50%超は確実」とのスクープを放ったのだ。その効果は絶大で、16日の取引開始直後からニッポン放送株は一転して下落。しかも追い討ちをかけるように、同紙は夕刊で「50%超を確保」と大見出しで報じた。
《ライブドアが16日の市場取引でニッポン放送株を追加取得し、議決権ベースで50%を超えたことが明らかになった。保有株が過半数に達したことでライブドアは六月末の株主総会を通じて過半数の取締役を送り込み、経営権を掌握する方針……》
 この記事が午後1時半前後にインターネットで流れると、ニッポン放送株の下落に拍車がかかり、ストップ安の展開となった。証券関係者は「議決権ベースで過半数を確保すれば、ライブドアは無理をしてまで買い増す必要がなくなる。しかもニッポン放送株は上場廃止になることが確実で、売れるときに売ってしまえと、急いで株を手放そうとする傾向が目立った」と振り返る。
 3月31日に提出された株の大量保有報告書などによれば、ライブドアは15日までに1516万6930株を取得、議決権ベースの保有比率は49.78%に達していた。16日には6万7000株を追加取得し、議決権ベースで過半数を0.003ポイントだけ上回った。したがって日経新聞の記事にウソはない。だが一方で、重大な落とし穴が隠されていることには、誰も気がつかなかった。
 ライブドア内部に詳しい事情通が打ち明ける。
「そもそも、議決権ベースの数値には何の意味もなかったのです。ライブドアがニッポン放送の経営権を掌握するには、15日の段階で依然として110万株という大量の買い増しが必要でした。ライブドアはそのことを、はっきりと認識していましたね。しかし株高では買い増しが難しいので、あえて50%超の情報をリークした。悪質な株価操縦といえるでしょう。日経新聞は、まんまとその片棒を担がされたのです」
 ニッポン放送株は外国人制限銘柄で、全体の20%を超える外国人保有株は名義の書き換えができず、議決権が与えられない。こうした議決権のない株がニッポン放送には極端に多く、昨年9月時点で233万株(発行済み株数の約7%)にも上っていた。この株を除外して計算した保有比率が、問題の「議決権ベース」だ。
 ただし、日経新聞に書かれた議決権ベースの数値はリアルタイムのものではなく、昨年九月時点の推計値にすぎない。しかも関係者によれば、実際の数値とは大きくかけ離れていたという。「当時は外国人保有株が大幅に減少しており、議決権のない株などほとんどなかった」からだ。
 カラクリはこうだ。
 2月8日以降、ライブドアとフジテレビは競ってニッポン放送株を買い進めていた。当然、議決権のない外国人保有株もどんどん買われていく。3月8日にはフジテレビがTOBで発行済み株数の36.47%を確保したと発表。ライブドアも3月15日までに46.24%を取得した。両社あわせて82.71%。残りの株が全て外国人保有株でも制限の20%以内で、名義の書き換えができる。議決権のない株が消滅するのだ。
「ちょっと頭を働かせれば小学生でも分かる計算。ところがマスコミときたらスクープ合戦に夢中で、ライブドアがたれ流す通りに、ありもしない議決権ベースの数値に振り回されたのです」(後略)

 

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