外遊先のイスラマバードでの同行記者団との懇談で、首相の小泉純一郎が「ポスト小泉」に言及し、永田町関係者を驚かせた。
「改革路線は間違いだという人が私の後の首相になるとは思わない。郵政民営化に反対の人が果たして国民の支持を得られるかどうか」
郵政民営化法案をめぐる自民党内の取りまとめが難航していた4月30日のことだ。
小泉が後継者に言及したのは、そのころ、前首相の森喜朗の周辺に「郵政花道論」があったからだ。
元政調会長の亀井静香や前衆院議長の綿貫民輔ら反小泉陣営に自民党内の多数が同調するとしたら、それは「郵政民営化反対」よりも、米国流グローバルスタンダードを「盲信する」担当相の竹中平蔵重用への反発が理由だ。そうした党内の空気を読んだ森らが、「法案成立と引き換えに退陣を要求すれば反対者は出ない」と小泉サイドに投げかけたのだった。
森らが、郵政を花道に退陣する小泉の後継にと想定したのは、前官房長官の福田康夫だ。森がその前後、世論調査でナンバーワンの首相候補となった安倍晋三に「まだ経験が足りない。焦ってポスト小泉を考えないほうがいい」とクギを刺し、講演などでも「安倍君が総理になるのはもう少し先」などと語ったのはそのためだ。
そのころから福田もそれまでの蟄居生活を一変、5月の連休前後からは同僚議員を誘ってのゴルフや会食を繰り返すなど党内の情報収集を開始した。
しかし小泉は、一時は迷ったものの結局「花道論」を拒否した。その後、国会運営に関する最大実力者で参院議員会長の青木幹雄が「参院での法案否決はあり得ない。取りまとめは終わった」とゴーサインを出し、自民党は民営化法案の提出を了承した。
だが、はずみの「郵政解散」の可能性はまだ残っている。亀井や綿貫の「打倒小泉」の執念は強く、衆院で多数の欠席者が出て十数人が反対すれば法案否決があり得るからだ。したがって、ぎりぎりの段階での「花道論」復活の可能性もゼロとはいえない。
もしかしたら民営化法案成立と引き換えに小泉の退陣があるかもしれない、と想定したのは福田だけではない。安倍が自民党内の嫉妬を承知で連休中に派手な対米外交を展開したのも「勝負の時期は近い」(周辺)という思いからだ。副大統領のチェイニーや国務長官のライスら米政権要人のほとんどと会談した安倍は、大統領のブッシュとホワイトハウスで鉢合わせして「親愛なる小泉首相によろしく」と声をかけさせるパフォーマンスまで演出してテレビカメラに撮らせた。ブッシュ政権が信頼する日本の政治家は小泉に次いで安倍だという構図を国民に印象づけたのだ。(後略)