記事(一部抜粋):2005年3月掲載

社会・文化

ライブドアの「無法」資金調達

既存株主を犠牲にして打つ大博打

 違法ではなく合法、しかし一般人の常識やモラルからすれば、おかしいのではないかと思われるような「商品」や「手口」が、マーケットで横行している。
 可能にしたのは金融自由化であり、欧米金融資本の要請に応える形での商法、証券取引法などルールの改正。先にシステムを押さえた方が勝つ「ゲームの理論」の通り、ルールとシステムに一日の長がある外資が猛威を振るい、勝利者となってきた。
 ニッポン放送株買い占めで話題を集めたライブドアは、旧来型企業や日本の金融機関が批判を恐れて容易には手を出せないグレーゾーンに、あえて踏み込むことで株式時価総額を増やし、M&Aを繰り返し、企業価値を高めてきた。
 証券界を驚かせた株式100分割で株式時価総額を上げ、「何をやるかわからない会社」という評価が投資家を集め、それが企業規模からは過大と思われる357億円もの公募増資を可能にした。
 そして今回は、証券界では「禁じ手」と目されているMSCB(ムービング・ストライク・コンバーチブル・ボンド)を使った800億円もの資金調達で、フジサンケイグループに挑んだ。
 株式100分割やMSCBの怖さは後述するとして、ライブドアの堀江貴文社長の戦略は、投資環境の変化を利用して資金を集め、プロ野球、銀行業界、マスコミといった既存秩序に先制攻撃を仕掛けることである。
 既得権益に守られ、競争が排除され、ぬるま湯のなかで経営陣にまで上り詰めたサラリーマン経営者たちは、堀江氏が繰り出す「奇手」「奇策」にアタフタとし、ルール無視と無分別を批判する。
 そんな「老経営者」たちの堀江批判は、半ば正しく、半ば間違っている。
 堀江氏は確かに無分別でありルール違反を犯した。フジテレビへの業務提携の申し入れなど、人を先に殴っておいて握手を求めるようなもの。「敵対的M&A」といえば聞こえはいいが、そんな手法は世界のどの国に行っても通用するわけはなく、米国においてすら陰を潜めている。
 むしろ批判すべきは、違法と合法の隙間を縫う「無法」の資金調達の方だろう。投資環境は確かに「何でも有り」の世界となった。しかし、モラルが無視されていいわけではない。なかでも飛躍の原点となった株式100分割とMSCBによる調達は、既存株主の犠牲のうえに成り立っている。(後略)

 

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