「野村証券が大きな新聞広告で総合金融サービス会社を打ち出している。こうした実態に法制も追いついていってもよいのではないか」。1月21日、金融庁で開かれた金融審議会金融分科会の席上、金融庁幹部はこのような意味深長な発言をした。
昨年、証券仲介業務を銀行に開放し、証券バッシングの急先鋒と目されていたこの有力幹部は、一転して証券界の雄である野村証券の戦略を高く評価し、「野村証券の戦略に行政(法制)も遅れてはならない」とまで言わしめた背景にあるのは、金融庁の変節か、はたまた野村証券の戦略転換か――。
金融界はその真意をはかりかねていたが、答えはすぐさま明らかになった。
2月3日、『日経新聞』1面トップに「UFJ、野村と信託提携」の見出しが踊った。UFJグループのUFJ信託銀行は、野村証券と信託業務で提携する方向で最終調整に入ったというもので、野村証券の顧客から遺言信託などの注文を受けUFJ信託に取り次ぐ体制を整え、個人向け相続関連サービスを強化するという内容だ。
もちろん野村証券が4大金融グループと信託分野で提携するのは初めて。一方、UFJ信託は10月に三菱東京FGとの統合で三菱信託と合併し、国内最大の信託銀行となる予定である。日経はこの点について、「今回の提携は新信託銀行(三菱信託とUFJ信託の合併行)に引き継がれる見込みで、統合後は信託銀行を媒介役の1つにして、三菱UFJグループと野村間で幅広い連携を進めることも視野に入ってくる見通しだ。個人金融資産の獲得へ銀行と証券の垣根を越えた連携が加速する」と示唆している。
金融庁が進める金融のコングロマリット化の方向を野村証券が受け入れ、動き出したといっていい。冒頭の金融庁幹部の発言はこうした野村証券の戦略転換を予見し、かつ評価してのものだったといえそうだ。
実は野村証券は、昨年12月24日に金融庁から打ち出された「金融改革プログラム」の内容を見て、金融庁が目指す証券行政の方向感を確信した。これを受けて、古賀信行・野村ホールディングス社長は、1月4日の年賀式で社員に次のように語りかけている。(後略)