「最強の捜査機関」という看板にもやや陰りが見えるが、マスコミがその動向を追い、最大漏らさず報道するという意味では、今後も無視しえない存在である東京地検特捜部の年初のラインナップが固まった。
直告1班がカネボウを、直告2班が西武鉄道を担当、財政経済班は滞留している税金事件を片づける。ほかにも国会議員が関係するものやいくつかの特殊法人、独立行政法人絡みの内偵案件があり、その進展具合によって優先順位が入れ代わることはあるが、カネボウ、西武グループといった大企業で繰り広げられた粉飾決算や有価証券報告書の虚偽記載という「帳簿の犯罪」が、当面の特捜部のテーマとなっているのは間違いない。
カネボウは名門・大企業意識のまま経営陣が長年、「病巣」にメスを入れずに放置、負債が膨れ上がった。本来であれば、決断する経営者が登場、「選択と集中」によって不採算部門を整理、見込みのある分野に経営資源を投入、自助努力で再建しなければならない。
しかし「ペンタゴン経営」という名の繊維、化粧品、医薬品、食品、ホームプロダクツといった散漫な事業形態を、歴代経営者はその形を決めた伊藤淳二元会長の幻影に怯えて改革できず、さらには労組との「なれあい」にも終止符を打てず、実質的に破綻する2004年3月まで、漫然と続けてきた。
それだけなら単なる経営の失敗である。
ところが歴代経営陣は、子会社への製品の押し込みや、利益の付け替え、あるいは赤字子会社の連結外し――といった手法で期末の決算処理でごまかしてきた。こうした粉飾は、翌期以降の改善が見込まれるのならまだ通用するが、事業形態を変えず、リストラもない状態では、粉飾が粉飾を呼ぶ最悪のパターンとなって、破綻するしかない。
カネボウは、まさに経営責任先送りの「負の連鎖」にはまり、産業再生機構入りした。その時点で、グループ全体の有利子負債は5567億円に達しており、再生機構は3660億円もの拠出を決めた。再建がなれば回収可能な資金とはいえ、公的資金の投入である。
ここに至った原因は解明しなければならず、再生機構入り後の新経営陣は、元検事の弁護士を委員長とする経営浄化調査委員会を発足させ、経営責任を追及した。その結果、興洋染織という合繊子会社に発生した巨額損失、01年度と02年度に旧経営陣が行った380億円もの決算の粉飾、99年度から01年度にかけての裏ガネの捻出が、「旧経営陣の罪」として浮上した。
新経営陣は、「調査委員会報告」に基づいて、旧経営陣を民事・刑事で訴えるわけだが、特捜部への刑事告発は、粉飾決算となる可能性が高い。常態化していたという意味で、カネボウ経営者の責任を明確な形で問いやすいからだ。
これに反発しているのが、帆足隆元社長、宮原卓元副社長ら刑事告発が予想される旧経営陣である。帆足元社長など、雑誌インタビューに答えて、カネボウの代表的経営者といえる伊藤淳二氏(68年から92年まで社長と会長)まで持ち出して、「伊藤時代からやってきたこと」と弁明している。
ここにカネボウ破綻の原因が集約されている。粉飾は確かに常態化していたかも知れないが、帆足氏は98年から破綻の04年まで6年近くも最終責任者のポストにあった。帆足時代は、企業会計基準が国際化、情報開示の迅速化と透明化がますます求められるようになっていた。その時代の変化を読み切れなかった経営トップとしての責任を自覚することなく、「以前からやっていたこと」と、開き直っている。
カネボウには公的資金の投入という逃れ難い事実があるのに加え、検察には「帳簿の犯罪の摘発による新しい企業秩序の構築」(検察関係者)という大きな狙いがある。(後略)