記事(一部抜粋):2004年12月掲載

経 済

大財閥による再基盤整備

三菱のプリンスホテル獲り

【証券マン「オフレコ」座談会】
B 西武鉄道がやっと上場廃止になったね。
C 40年間も「大株主上位10人と役員、自己株式を持つ場合は自社も含めた保有株比率が80%を超えたまま一年を経過すると廃止」という上場廃止基準に抵触していたんだから止むを得ないだろう。
B でも9月までに取引先33社に株を持ってもらったから、解消となったんじゃないの。
A しかし、コクド社長(当時)の三上豊が「信義を裏切ったので買い戻したい」とコメントしただけに、再び抵触するのは避けられない。グループで分散して持つにしても、信用力が低下しているだけに厳しいだろう。また、最終的には東京証券取引所の裁量ということになるんだろうが、同じ問題を起こしても、詳しい経緯を釈明してきた日本テレビ放送網と違って、西武鉄道は何も言ってこないから、東証側は相当頭にきているらしい。それよりも西武グループや読売グループの「パンドラの箱」がなぜ今、開けられたのかということが重要だ。
B それは西武鉄道の総会屋事件で株主名簿が押収され、検察側に事情聴取されたからじゃないの。
A 果たしてそれだけの理由なんだろうか。
C 我々の持論である「大財閥の再基盤整備」の動きが背景にあると言いたいんじゃないの。
A 実はそうなんだ。気になるのは元首相の竹下登が生前、側近に「昭和恐慌時の勉強をしなければならない」と言って、当時の文献を読み漁っていたこと。
B すると竹下は、その後の日本経済が昭和恐慌と全く同じになると読んでいたってこと?
A その可能性が高い。
C 確か、昭和恐慌は緊縮財政によって引き起こされた不況だったはずだ。一般庶民、特に農民が不況と冷害で苦しむ中、官僚と政治家は料亭三昧を続け、大財閥は二流財閥と新興企業の経営危機につけ込み、次々と二束三文で吸収していった。それが庶民や軍部の憎悪の的となり、昭和七年、三井財閥の最高指導者で三井合名社理事長・団琢磨や前大蔵大臣・井上準之助が「血盟団」の団員により暗殺されるという事件が起こった。それくらい、庶民や中小財閥(グループ)が悲惨な目に遭った。
B まるで小泉首相が標榜する、まやかしの「三位一体」改革みたいだ。だけど昔のような国民の反乱も起こらない。自殺者は交通事故による死者を超えたというのに。
A それは戦後教育とマスメディアの情報操作の効果が大きいからだろう。この動きはますます強まっていく。例えば、今回の有価証券報告書虚偽記載を受けて、フジテレビの筆頭株主であるニッポン放送の株を買い占めている村上ファンド(代表・村上世彰)は、東証に対し審査や上場廃止の基準厳格化などを要望する意見書を提出した。株の持ち合いさえ解消させれば、もっと買い増しし経営権が握れるようになるからだ。村上のバックは、総理大臣の諮問機関「総合規制改革会議」の議長を務めているオリックス会長の宮内義彦と言われている。
C そういえばオリックス社長の藤木保彦は、決算発表の席上、コクド会長(当時)の堤義明が直接、宮内に西武鉄道株の購入を持ち掛けていたことを明らかにした。
B 西武グループや読売グループ包囲網に、組織的な動きが感じられるね。
A さっきの話に戻るけど、大不況からの立ち直りが見え始めたあたりから、大財閥による中小財閥潰しが活発化するケースが多いようだ。だから大不況は大財閥にとってはビジネスチャンスと言える。金融不安が起これば起こるほど預金者は、弱小銀行から東京三菱などに預金を移し替える。例えば昭和恐慌の時、五大銀行(三井、三菱、住友、安田、第一)への預金集中率は、1926年の23.7%から31年には38.3%まで増加した。不況期には財閥系銀行の収益も悪化する。しかし、恐慌によって弱小銀行が潰れてくれれば、相対的に大銀行の支配力は強化される。大財閥は好景気の時にはインフレによって儲け、不況期には巨大な資金力を背景に金融支配を強める。不況期に財閥が吸収するものは、顧客や店舗、人材、ノウハウといった汗の結晶。他人が営々と築き上げてきたものをそっくりフトコロに入れることができる。
B まさに「濡れ手に粟」だ。
C そのために大財閥も不況感を煽らなければならない。そうすれば「世の中が不景気なのだから」と言って人員整理ができる。もしくは再雇用や関連会社へ飛ばすことで給料を半減することができる。(後略)

 

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