「得意なのは、政策よりも政局」。誇らしげにそう言ったことのある首相の小泉純一郎は、9月末の内閣改造・自民党役員人事で、郵政民営化断行への布陣を小泉流の独断で固めた。元首相の森喜朗や参院自民党会長の青木幹雄ら支持勢力の意向さえ無視したやり方は一見無謀だが、背後には冷徹な政局観に基づく計算がある。現に、自民党内の反小泉勢力は不満を表面化させてはいるものの、反乱を起こすのはきわめて難しい構図ができあがった。そうした中、二年後のポスト小泉に向けて「本命麻生、対抗安倍」という見方が浮上してきた。
「幹事長だと思っていたら総務会長だった」
久間章生は周辺にそう語り、納得できないという表情をみせた。9月27日午前、自民党本部で小泉から総務会長への就任を言い渡された直後のことだ。実は久間はその前夜、小泉から電話を受けていた。
「あなたに重要な党の役職をやってもらう」
最大派閥・橋本派を代表しての三役入りであり、久間は当然三役のトップである幹事長だと思い込んだ。
ところが、小泉から指名を受けるため党本部で待機していると武部勤と与謝野馨がやってきた。3人に党三役を割り振るとすれば、政調会長はまず与謝野に間違いない。無派閥で根回しなどの党内政治が得意でない与謝野にうるさ型がそろう総務会のまとめ役は無理、幹事長は同じ理由でもっと無理だからだ。しかし、当選6回で党内中堅でしかない武部にも、先輩、重鎮が並ぶ総務会のトップは務まらない。当選八回で橋本派をバックにする自分の役割は総務会の押さえ――即座に久間はそう悟った。だが、なぜ武部が幹事長なのか、久間は納得できなかった。
青木と森は、幹事長に堀内派を牛耳る古賀誠、総務会長に亀井派を率いる亀井静香を起用するよう小泉に強く提言していた。2人を受け入れれば政調会長は橋本派からということになり、額賀福志郎の留任もしくは久間ということになる。
2人の提言の理由は、郵政民営化に向けた党内の取りまとめだ。青木らの認識では党内の過半数は民営化に断固反対。党内を説得できずに小泉政権の最大公約である郵政民営化が挫折すれば、即座に小泉退陣につながる。この状況を打開して民営化を軟着陸させるには、古賀と亀井、それに橋本派の政調会長実現で、森派以外の主要3派を党執行部に取り込む必要がある。そのうえで青木と森が背後で連携して妥協点を探るのがベストと考えたのだ。しかし、小泉は2人の構想を受け入れなかった。派閥の組み合わせで多数派を形成するという発想を拒否したのだ。
「誰にも相談しないというなら、私にも青木さんにも会わなきゃいい。会ったのにノーアンサーでは世の中通らない」
森が9月30日の森派総会で40分にわたり初めて公に小泉批判をしたのは、それしかないと考えた政局乗り切りの人事構想を、あっさり否定された腹立ちからだ。(後略)