記事(一部抜粋):2004年9月掲載

社会・文化

「食肉同和利権」崩壊のXデー 

「食肉のドン」逮捕に続き「名古屋のドン」へ捜査本格化

 愛知県の「政官」に隠然たる影響力を持ち、「名古屋のドン」と呼ばれる藤村芳治フジチク社長(六二歳)に対する名古屋地検特捜部の捜査が本格化している。
「お盆の前から名古屋地検は、フジチク幹部の参考人聴取を活発に行っています。『名古屋は(摘発を)免れたんじゃないか』という観測が拡がっていただけに、藤村さんと親しい政治家や官僚は衝撃を受けています」(愛知県政界関係者)
 名古屋地検の狙いは、いうまでもなく「牛肉偽装事件」の仕上げをすること。すでに、藤村社長の兄貴分的存在の浅田満ハンナン元会長(六五歳)は、大阪府警と大阪地検特捜部が詐欺罪と補助金適正化法違反で逮捕起訴、公判が始まっている。
「名古屋のドン」が率いる愛知県同和食肉事業協同組合(愛知同食)が、国の「国産牛肉買い上げ焼却制度」を使って買い上げ申請、焼却した牛肉の総量は、単体では最大の一二四六トンにのぼる。
 愛知同食(の捜査)はどうなっている――といった声があがるのは当然のことであり、本誌でも二〇〇四年六月号で《「牛肉偽装事件」広がる捜査の網》というタイトルで、「浅田事件」がフジチクグループへ波及することを予告した。
 しかし検察捜査は、浅田被告の抵抗にあって思いのほか難航したという。
「大阪地検特捜部は、牛肉偽装事件を仕上げたうえで『政官ルート』に着手するつもりでした。ところが浅田被告は、偽装の事実は認めるものの、政治家や官僚の関与はいっさい認めず、『わたしが悪うございました』の一点張り。だから、浅田、藤村の両実力者が仕組んだ事件、という構図に持っていくことはできなかった」(検察関係者)
 BSE(狂牛病)騒動に端を発した「国産牛肉買い上げ焼却制度」は、官僚の「不作為」と、それにつけこむ政治家や業者、という戦後日本の悪しき「もたれ合い」が生んだ典型的な事件だった。
 〇一年九月にBSE感染の国産牛第一号が発見されて以降、急激に牛肉消費が落ち込むなか、農水省は全頭検査して安全な牛だけを出荷することを決め、検査前牛肉については「一時隔離」することにした。
 この「一時隔離」が「買い上げ」へと変わり、やがて「全量焼却」することになったのだが、そうした政府の方針変化を事前に知っていたかのように、検査前牛肉を大量に買い集め、農畜産業振興事業団(当時)を通じて国に買い上げ申請、焼却前のチェックが厳しくなるのを見越したかのように、「全量焼却」していたのが、食肉流通を牛耳るといわれる全国同和食肉事業協同組合連合会(全同食)傘下の団体だった。
 全同食は、専務理事である浅田被告が支配する団体であり、副会長代理の藤村氏はその右腕である。
 買い上げ総量約一万三〇〇〇トンのうち三分の一近い約四〇〇〇トンを全同食関連が占めるという異例の厚遇も、制度創設やその変更を見越したような全同食の素早い対応も、中央政界や農水省に太いパイプを持つ「二人のドン」が仕掛けた「政官工作」の賜物ではないか――大阪地検の捜査着手前から、こんな見方がなされていた。
 というより、「浅田逮捕」は、それまで続いた雪印食品や日本ハムといった牛肉偽装事件に対する国民的な「わだかまり」に、検察なりの意地を示したのである。
「買い上げの規模や金額、あるいは証拠となる牛肉をすべて事前焼却していたという手口の悪質さから、雪印や日ハムといった企業犯罪以上に全同食問題は根が深いことはわかっていました。国民も、マスコミが『食肉同和利権が牛肉偽装の根源にある』と報道するので、問題の複雑さを感じていた。
 雪印や日ハムと違い、証拠となる牛肉が焼却されており、捜査が難しくなるのは承知していましたが、国民的関心事となっているうえ、『食肉同和利権』のようなものを放置できないという時代的要請もあって、捜査に着手したんです」(前出の検察関係者)
 この時点で、牛肉偽装疑惑は検察の意向を受けた「国策捜査」に昇格した。そして検察の手足となった大阪府警が詐欺や補助金適正化法違反でまず捜査着手、それを受けた大阪地検が「政官ルート」の贈収賄事件へと発展させるというスケジュールが組まれたのである。
 その際、藤村氏は「食肉のドン」の異名を取る浅田被告の右腕として捜査対象となり、浅田逮捕の後、何度も大阪府警や大阪地検特捜部の事情聴取を受けている。
「地検の検事は、浅田さんの事件のことやなしに、われわれと政治家の関係ばかり熱心に聞いてくる」
 この頃、藤村氏は周辺にこう漏らしている。(後略)

 

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