記事(一部抜粋):2004年9月掲載

政 治

自民党の「派閥人事」が復活 

「郵政民営化」を人質にとられた小泉

「郵政民営化に協力する人を見極めて人選する」
 九月末の内閣改造・党役員人事に向けて首相の小泉純一郎が掲げたこの基本方針が、「独り相撲」となりそうな雲行きだ。「民営化といいながら、肝心の中身で妥協する」(森派幹部)なら、「踏み絵」にならないからだ。自民党各首脳も公明党も「首相のメンツを立てて、改革に協力すると言ってやれば、今回は人事の要求を飲む」とみる。だが、参院選敗北で求心力を失った小泉が政権維持をすべてに優先させる姿勢をとれば、改造も党人事も、原則と目的を失った、単なる駆け引きがすべての迷走劇となる。
「参院選がどんな結果になっても、小泉の政権維持に協力する。役員改選では、幹事長とはいわないから、せめて総務会長にしてくれ」
 参院選投票日直前の七月上旬、反小泉の急先鋒のはずの亀井静香がこういって頭を下げたと、森喜朗の周辺は語る。森は即座に亀井の意向を小泉に伝えた。小泉の返事は驚いたことに「考慮する」で、これまでとはだいぶニュアンスの違うものだったという。
 亀井派内では、総裁候補を亀井から経済産業相を長く務めた弟分の平沼赳夫に切り換えるべきだという声が渦巻いている。焦る亀井は議員や記者を個別に呼び出し「総裁候補は俺」と洗脳するなど防戦に躍起だ。しかし、小泉政権下で亀井がこのまま干され続けるなら、代替りの流れは確定してしまう。
 小泉には平沼を政調会長か総務会長に抜擢し、小泉改革に反旗を翻してきた亀井を事実上、政界実力者の地位から追い落とすという選択肢がある。だが、その決断は求心力を失った参院選後の小泉には簡単にはできない。亀井が森に頭を下げたのは、参院選投票前の時点で自民党の敗北が確実となり、小泉が妥協する可能性があると読んだからだ。
 参院選から一週間ほど経った七月中旬、堀内派領袖の堀内光雄が所有する山梨県富士吉田市のゴルフ場に、自民党実力者を自認する面々が集まった。堀内、亀井、森、中川秀直、橋本派の野呂田芳成らだ。三年前、森が首相を辞任した後に発足した「山麓会」という会合で、参院のドン青木幹雄、元衆院議長の綿貫民輔らもメンバーだ。
 ゴルフをしながらの話題はもちろん内閣改造・党役員人事。「挙党体制が必要だ」「若手登用のビックリ人事は通用しない」という一致した声に対し、森が小泉の心境をこう説明した。
「支持率が高いときは聞く耳を持たなかったが、最近は素直になってきた。最大の看板である郵政改革にストップがかかれば、内閣を放り出すしかないことを、彼はよく分かっている」
 今や郵政民営化だけが小泉の残された課題。そのメンツを立ててやれば、人事は柔軟に応じるというのだ。
「山麓会」のメンバーが一致して郵政民営化を断念させる方針を決定すれば、その時点で小泉内閣は退陣が決定的となる。堀内や野呂田はその方向を模索している。それにブレーキをかけているのは、実は青木―森ラインだ。
「勝手な民営化案を押し通そうとするなら、参院で必ず廃案にする」と青木は参院選前に断言した。その時点では、単なる恫喝の意味しかなかったが、参院選に負けて情勢は一変した。求心力を失った小泉にとって、郵政民営化はいまや踏み絵ではなく、青木にとられた人質だ。(後略)

 

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