記事(一部抜粋):2004年8月掲載

社会・文化

捜査当局に狙われる社会保険庁の末路 

年金問題の国民の怒りを背景に検察・警察は「やる気」

 社会保険庁長官に、民間出身の村瀬清司・前損害保険ジャパン副社長が就任、年金改革法案の論議を通じて批判が高まった社保庁が「解体的出直し」を図ることになった。
 この種の「民間人起用」は、国民の不満を解消、マスコミの批判をかわす常套手段といっていい。事実、社保庁改革は、年金改革法を成立させたばかりの政府・与党が、制度批判を和らげるために急遽、取り組み、まるで参院選へのアピールのように村瀬氏の起用がアナウンスされた。
 坂口力厚生労働相が六月中旬に示した社保庁改革の私案では、独立行政法人化など民営化も視野に検討することになっている。また、長官の下に顧問(外部から長官にアドバイス)、アドバイザリースタッフ(民間などから主要課題ごとに配置)、運営評議会(労使代表、有識者などで構成)などを新たに設置、改革に取り組むことになった。
 社会保険庁職員約一万七五〇〇人が、年金保養施設「グリーンピア」に見られるような壮大なムダをおかしいと感じることなく、職員住宅から公用車までを国民が納付した年金の流用で賄うことに何の疑問も感じないような精神風土で働いてきた。
 長官ひとりを民間人に変えて、外部スタッフをいくら充実させたところで、強制力のある「民営化法案」でも成立させなければ、この「腐った組織」の意識を改革、立て直しを図るのは無理だろう。
 むしろ効果があるのは、検察、警察の捜査当局が、厚生労働省・社会保険庁をターゲットにした捜査を続けていることだ。
 すでに、東京地検特捜部は日本歯科医師会の政治団体である日本歯科医師連盟(日歯連)を何度も摘発、その過程で下村健・元社保庁長官を逮捕した。日本有数の圧力団体である日本歯科医師会の臼田貞夫前会長が、健康保険組合連合会(健保連)の「ドン」といわれた下村被告に賄賂を贈ったこの事件は、保険医療の要である診療報酬の引き上げを狙ったものだけに、健康保険行政の根幹を揺るがすものだった。
 日歯連事件の捜査は、参院選を終えてようやく「政界ルート」に踏み込んだ。
「選挙や政局への影響を嫌う特捜部は、七月一一日に参院選が終了するのを待って捜査着手するよう準備を進めてきました。したがって、七月一五日の吉田幸弘・前衆議院議員の逮捕は、かなり前から予定していたもので、今後、厚生労働行政に職務権限のある政治家の罪が問われることになります」
 吉田前代議士の逮捕容疑は業務上横領である。日本歯科医師会の「お抱え代議士」だった吉田容疑者は、日歯連から振り込まれた五〇〇〇万円のなかから三〇〇〇万円を同じ業務上横領容疑で逮捕された臼田前会長に還流、前会長はそれを日本歯科医師会の会長選費用としたのだった。
 もちろん「吉田逮捕」は入口である。
「吉田前代議士は元歯科医師で、一九九六年の総選挙で新進党から出馬して当選、その後、自民党に移り、前回の選挙で落選するのですが、永田町では『日歯の職域代表』と見られていました。『歯医者さんのためだけに活躍する国会議員』なんです。だから特捜部は、吉田を起点に大きく事件を展開できると考えています。彼はすべて知るキーマンなんです」(全国紙司法担当記者)
(後略)

 

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