「現有議席を割った場合の責任は、そのとき考える」
参院選前にそう言った小泉純一郎は、自民党の改選議席五一が四九へと二つも減ったにもかかわらず政権の座に居座った。最大の理由は、党勢衰退を実感した自民党の内情にある。ここで小泉の足を引っ張れば、自民党が遠からず政権を失うことが明らかだからだ。だが、小泉が郵政民営化路線を突っ走る一方で、党の独自色を求めて公明党と一線を画そうという動きもあり、党内矛盾は広がっている。すでに一部には、民主党内部との連携を模索する考えも浮上、永田町は二年後の小泉の総裁任期切れを待たずに、激動期に突入する。
「やっぱり創価学会に頭を下げるしかないのか」
諦めに近い嘆息が自民党の選対本部で聞かれたのは、投票日まで一週間ほどを残したころだ。公示前には、五六議席以上を獲得して、衆院に加え参院でも単独過半数を確保、公明党に気兼ねせずに教育基本法や憲法の改正に取り組める可能性もあるという楽観的な見方もあった。だが公示後の各種世論調査で、目標に掲げた五一議席すらも危ういことが判明。小泉周辺もこのころから顔色が変わった。
小泉や幹事長の安倍晋三らは選挙前、公明党・創価学会に過度の借りをつくることを警戒していた。来年の立党五〇年を期して作成を進める憲法改正案、小泉の任期中に手をつけたい教育基本法の改正が念頭にあったからだ。そればかりではない。小泉改革の目玉である郵政民営化にも、「郵便局を守れ」という創価学会婦人部の素朴な声を背景に、選挙後に公明党が注文をつけてくる懸念があった。
七月五日午後、首相官邸を訪れた幹事長の安倍晋三、参院幹事長の青木幹雄、幹事長代理の久間章生らの情報分析は、そんな甘い考えを吹き飛ばす内容だった。
「このままでは四五議席がいいところだ。そうなれば政権が吹っ飛ぶ。ここは重ねて創価学会に頭を下げるしかない」
そう語る青木の言葉を、小泉はうつむいて了承するしかなかった。(後略)