「おれは、政策より、実は政局が得意なんだ」
小泉純一郎が自民党若手議員にそう語ったのは、総裁選に圧勝するはるか前、今年春のことだ。その言葉が誇大宣伝んでないことを、永田町の住人は九月末の内閣改造・党人事で実感した。小泉は人事に、総裁任期の三年間を首相として乗り切り、改革を実現させるための策謀を込めた。それはポスト小泉候補を意図的につくりあげ、互いに競わせるという故佐藤栄作の権力操縦術にならった巧妙でしたたかなやり口だ。
安倍晋三は「君に幹事長をやってもらいたい」と電話で小泉に言われたとき、「これはまずいことになったと咄嗟に思った」と周辺に漏らしている。だから、「私のような若輩者でいいのでしょうか」と正直に不安を口にした。だが小泉は「若いからこそ、できることもある」と押し切った。
安倍の胸中にその後しばらく疑心暗鬼が渦巻いた。抜擢の真意に疑いをもったのだ。(後略)