「最悪のケースを想定して対応するよう『上』からの指示があった。しかし、事態がどう動くのか見当がつかない。いろいろと教えていただきたい」
7月初旬の某日、あるマスコミ関係者は、武富士の幹部からこう相談を持ちかけられた。聞いてみると、幹部がいう「最悪のケース」とは、武富士のワンマン経営者、武井保雄会長が刑事責任を問われる事態を指しているようだった。具体的には、武富士が自社に批判的なジャーナリストや社内の不満分子の自宅に盗聴器を仕掛け、電話の通話内容を盗聴・録音していたとされる疑惑にからんで、武井会長が電気通信事業法違反で立件される可能性のことらしかった。
この幹部によれば、「最悪のケース」を想定するよう指示した『上』というのは、野村証券出身で昨年、武富士に迎え入れられた清川昭社長。武富士社内で「Xデー」に関する話題が、7月上旬の時点で公然と囁かれていたことを窺わせるエピソードだ。
昨年10月に本誌が盗聴疑惑を報じて以来、武富士は会社として盗聴に関わった事実はないと頑なに疑惑を否定してきた。しかし、盗聴テープは現実に数十本存在し、盗聴を実行したとされる探偵会社が発行した領収書や、探偵会社への支払いを了承した社内稟議書などのブツも一通り揃っている。盗聴工作の担当者だった中川一博・元法務課長(業務上横領で逮捕・起訴済み)も「武井会長の指示を受けて探偵会社に盗聴を依頼した」と容疑を認めている。
武富士は「盗聴の依頼は中川が勝手にやった可能性がある」と、中川氏の個人犯罪である可能性を強く示唆しているが、一社員にすぎない中川氏に、多額の費用(総額で1000万円を大きく超える)をかけてまで、探偵会社に盗聴を依頼しなければならない事情があったとは思えない。武井会長の指示があったという中川氏の言い分のほうに、むしろ説得力がある。
武富士幹部から相談を持ちかけられたマスコミ関係者は、そこでこうアドバイスした。
「武富士で盗聴などの違法行為に関与していたのは、武井会長を含めほんの一握りの人物だけだったと聞いている。事情を一番知っている中川氏は別件で警視庁に逮捕されて拘留中。武井会長に直接問い質すこともできないので、盗聴が本当に行われていたのか否か、経営陣には判断する材料がないのだろう。かといって盗聴を認めるわけにもいかないので、取材に対しては否定コメントを出すしかなかったのだろうが、今後、最悪のケースが仮に起きた場合には、率直に世間に詫び、二度とこのような不祥事は犯さないと誓ったうえで、武井会長に経営責任をきちっと取ってもらうしかないでしょう」
すると、武富士の幹部はこう言って引き取った。
「やはり、膿は出すしかないのですね……」(後略)