政権発足から八ヵ月余が過ぎて、首相として小泉純一郎が採る路線が、究極的にどこへ向かうかが、ようやく鮮明になってきた。
小泉に政界再編について問えば、おそらく「自民党を割るつもりも、出るつもりもない」と答えるだろう。だが、やはり小泉の胸中にあるのは従来の自民党政治の全面否定にほかならない。自民党の名前を残しながら、抜本的に党の在り方を変え、それによって「聖域なき構造改革」を断行する。つまり小泉が胸中に抱えて走るゴールは、従来型の実力者を一掃しての“新自民党”の樹立なのだ。
「一年後に自民党はありますか」
民主党代表の鳩山由紀夫が、小泉にこう問い掛けると、一瞬だったが座が緊張に包まれた。
道路公団改革、医療制度改革など、小泉と「抵抗勢力」の攻防が一応決着し、政府の経済財政諮問会議が平成一四年度予算案の基本方針決定に漕ぎ着けた夜。都内の料亭に顔を揃えたのは、小泉、鳩山のほか、民主党から特別代表の羽田孜、副代表の鹿野道彦、自民党から政調会長の麻生太郎といった面々だった。
誰もが小泉の口からどんな言葉が発せられるのか注目して聞き耳を立てた。一連の攻防で、小泉か橋本派を中心とする自民党内抵抗勢力のしたたかなやり口に辟易して、感情的になっているはずと考えたからだ。
「さあ、わからないね」
しかし小泉の返事は、ぽつりと素っ気なかった。顔には不遜な、鳩山をからかうような笑みさえ浮かべていた。(後略)