記事(一部抜粋):2001年8月掲載

連 載

【豊かな村の貧しい物語】

「高知ショウガ」「ドリンク茶の原料」いずれも原産地は中国 

 高知市の北東約三〇キロのところに人口二万人ほどの土佐山田町がある。この何の変哲もない町に、輸入生姜を扱う会社が三社もある。
 もともと高知は生姜の一大産地だった。国産生姜の価格が高くなったことが輸入の始まりだった。その一社に取材で訪れたのは、つい最近のこと。輸入生姜のパイオニア的存在だと聞いていたからだ。
 事前にアポを入れて本社を訪れたら、建物の立派さに腰を抜かしてしまった。敷地に建ち並ぶ事務所棟や工場をみると、土臭い生姜を扱う会社とは思えない。ハイテク製品の部品を作っている会社かなと見誤った。と同時に、生姜の輸入がそんなに儲かるものかと思いをめぐらせた。
 やおら取材を始めようと、テープレコーダーを取り出すと、相手の社長さんがいきなり怒りだした。
「あんたら、こんなもの出して人の話を録音して税務署にでも持ち込むのと違うか」
 これには参ってしまった。やりとりをテープに録音するのは、記事に正確を期するためで、他の目的に使うようなことは絶対にないと説明したのだが、最後まで納得はしてくれなかった。
 それでも粘って取材を続けようとすると、今度は「東京から来たんやったら、千葉の八街に行ったらいい。そこで生姜を輸入している業者は、中国産を国産と偽って売っとるぞ。もっと勉強してから取材やったらどうや」と、ご丁寧にも取材のヒントまでくれた。
 しかし、具体的に聞こうとさらに粘ると、スクッと立ち上がった社長さんは「もう帰れ! 帰れ!」と怒り始めた。
 実は、この会社のことは事前の取材で十分に調べていた。中国産生姜輸入のパイオニアで、中国産の輸入ブームに乗って商売は至極順調、税務署がいつも目を光らせている会社であることも分かっていた。テープをみた瞬間の社長さんの過剰反応は、そのときの辛い経験がトラウマにでもなったかのような印象だった。
 実は、中国産の生姜が高知産などと偽ってスーパーなどで売られていることも先刻承知だった。しかも高知では農協もそれに手を貸していると聞いたことがある。そのときの取材は、表示を偽って暴利を貪る業者を突き止めるためだったが、期せずして社長さんは、千葉県八街市の業者がニセ表示をしていると暴露してくれたのだ。(後略)

 

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