日本政府肝入りのIT戦略会議について、筆者が米国の友人と論議した時だ。「ミスター・モリ、ミスター・モリ」と口走りながら会議風景を撮った新聞写真の人物に何度も指を当てているのが気になった。それは森喜朗首相の隣に立っているた出井伸之ソニー会長であった。「ミスター・モリは隣りだよ」と言うと、彼は怪訝そうに私を見返し、「この男がプライムミニスターなのか」とでも言いたげな風であった。
筆者には、日本人の面構えについて米国人と論議した懐かしい思い出がある。八〇年代の前半であったと思う。ウォール街で会議をしていた時、コーヒーブレイクになり、その日の『ニューヨークタイムズ』に掲載されたアメリカンエキスプレスの全面広告が話題になった。ゴールドカードを手にした当時のソニー社長・盛田昭夫氏の顔が大きく出ていたのだ。「ソニーが押しも押されぬ国際企業になったからアメリカンエキスプレスは、そのトップの顔を広告に使ったのか」という私の質問に、米国のビジネスマンたちは「ソニーぐらいの国際企業は別に珍しくない。アメリカンエキスプレスが買ったのはミスター・モリタ自身の面構えで、こういう品と野生味が混じり合ったエネルギッシュな顔を持つトップエグゼクティブは米国にもそうざらにはいない」と言ったものだ。
盛田、出井とソニーは面構えのいい経済人を輩出し続けているわけだが、盛田論議の際、米国人の一人が「敗戦国日本にもいい面構えのビジネスマンが出てきたが、政治家、軍人、教師の三つのジョブは国が一度、敗れると、しばらくは貧相なリーダーたちの時代が続く」と講釈しいていたのが今でも耳にこびりついている。(後略)