A そういえば、例の大型株投信「日本戦略ファンド」もいただけなかったね。テレビコマーシャルをバンバン打って宣伝したのはいいが、売り方も不透明だったし、このファンドの基準価額の値下がりもひどい。
C あの投信の販売では、他のファンドからの乗り換えを勧めるセールスが目に付いた。主に乗り換えの対象となったファンドは、野村が売った外資系投信のファンドで、この投信会社の関係者は「野村は何てことするんだ」と怒っていた。
A 運用実態の開示も不透明だった。結局、一時持てはやされたIT関連銘柄を多く買い込んで運用していたわけで、その意味では、ファンドの値下がり理由は十分に理解できる。見方によってはIT関連銘柄の塩漬けファンドのようになったわけだ。個人投資家のマネーで相場を支えたり、下落の衝撃を吸収したりしてきたのが証券会社の伝統的なやり方だったが、やはり、伝統からの脱却は簡単ではない。
B IT関連銘柄といえば、「アンサンブル」というデリバティブ商品も野村は売っていた。これは、複数の株式をファンドを作り、それを債券形態に作り直したものだ。株式の債券化という種類の先端商品で、野村は、このアンサンブルを四本作り上げて、機関投資家に販売している。
C その話は聞いたことがある。ファンドにはめ込んだ株式の中に、光通信などの銘柄がふんだんに入っていたらしいね。
B そうなんだ。だからアンサンブルは販売後、下がりに下がった。一説によると、元本の三割程度まで市場価値が値下がりしたそうだ。当然、期間投資家は怒り狂った。野村は慌てて買い戻しに動こうとしたが、その買い戻しの値段も元本を大幅に下回らざるを得ない。もし投資家が野村の買い戻し提案に乗って、売り戻しに応じてしまったら、その瞬間に莫大な損失が発生する。
A 一時期、野村はこの問題に相当神経質になっていたね。
B それはそうだろう。最新商品を組成しましたと言っておきながら、実態は、市場に売り物が続いて先行きが危なくなった株式の底支えみたいなことをやっていたわけだから。商品は最新でも、魂胆は旧態依然だった。