公の席では話題にこそならないが、来年夏の参院選で森内閣が退陣する可能性は九〇%以上と、政界関係者の誰もが思っている。自民、公明、保守の与党三党で非改選とあわせて参院の過半数を確保しなければ退陣要求が必至であり、過半数は「至難の技」(加藤紘一周辺)だからだ。
森喜朗が参院選後、政権を維持する方策は理屈でいえば二つしかない。あらゆる手立てを尽くし選挙に勝てる支持率を得るか、「少しぐらい負けても、続投に異論がでない環境を政治的に作る」(亀井静香周辺)かだ。しかし冷静に考えれば、積極的なIT対応の転換や教育改革、外交で得点を稼いでも、景気動向に不安もあり、支持率の上昇にすべてを託すのは危うい。とすれば、森が取るべき手段は、十二月上旬に断行する内閣改造・自民党役員人事での秘策ということになる。
自在に与党内を操縦できる態勢を築けるかどうか、それが森政権の命運を分ける。 森は七月の第二次政権発足以来、参院選をにらんで独自カラーをどう打ち出すかに腐心してきた。その森にとって衝撃的な事件が九月末に起きた。創価学会名誉会長の池田大作が、森カラーの象徴といえる「教育基本法改正」に異論を唱えたのだ。
池田は聖教新聞紙上で、改正の拙速は避けるべきだとし、次のような見解を表明した。
「『教育勅語』の徳目の復権など、それらが戦前の天皇制、家夫長制のもとでどのような役割を果たしてきたかを考えるなら、時代錯誤以外のなにものでもないでしょう」
森は基本法に郷土愛や国家への愛、伝統文化の尊重などを盛り込もうとしている。かつて国会答弁の中で、そうした項目を「教育勅語にあった」と説明したことがある。池田の見解は、創価学会が戦前の天皇制のもとで弾圧を受けた歴史を踏まえたものだろうが、森の考えとは対立する。
与党内で、この池田の見解にすぐさま同調したのは、公明党代表の神崎武法と加藤紘一だった。池田を事実上と師匠とすする神崎は当然としても、加藤が一〇月四日、講演で「基本法にはかなり立派なことが書かれており、いま改正する必要はない」と発言した影響は大きかった。改正見送りの空気が瞬く間に政府・与党内に広がったからだ。
(後略)