日本は国益を真剣に考える時期にきた。米国のグローバルな経済・金融戦略に従うことが、日本にとって最善の選択であるというのが、どうやら我が国の国家戦略といえる。しかし、その受け身の戦略が世界の二大バブルと言われている「米国の株価バブルと日本の国債バブル」を生み出したことを忘れてはいけない。海外からドルを還流させることによって経常赤字を補う米国の金融戦略に組み込まれたのが、日本の低金利政策である。その結果、低金利の円は、高金利のドルを求めて米国に殺到し、米国の株価を押し上げたのである。
韓国と北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の対話が始まろうと、台湾の新政権を担う陳水扁総統が中国を意識して慎重な言葉使いをしようが、アジアの軍事紛争の可能性は消えたわけではない。かえって在韓米軍撤退後の統一朝鮮と軍事大国・中国の脅威は増してくるだろう。
戦後、安全保障を米国の軍事力に頼り続けた日本は、国としての矜持を忘れ、「知」と「勇」を衰えさせた。一例が、いまだ自前の経済・金融戦略を構想することさえできないでいることだ。世界最強の軍事力を持ち、IT(情報技術)や金融工学などの分野で圧倒的な力を有する米国を独り勝ちさせることは、世界市場の公正な競争確保の点から望ましくない。今、日本に求められるのは、米国を牽制できる大胆な国家戦略を持つことだ。
米国は民間企業が力を持っており、かれらのマネーへの飽くなき欲望が引き起こすモラルハザードがアジアを蹂躙する可能性がある。
例えば、軍事マーケットの五〇%を握る米軍産複合体にとって、アジアの軍事的緊張は好ましいものであり、米軍のアジアにおける存在そのものがパワーバランスを脅かす可能性もある。また、一九九七年のアジア通貨・金融危機も、先物・オプションなどのデリバティブに強い米国の金融機関や投資ファンドにとって、カネ儲けの絶好の機会であった。通貨や債券価格などの変動(リスク)が激しければ激しいほど大きな利益を生む。米国勢は、それらの変動をうまく御して、アジア諸国から富を収奪してきた。
このように、アジアの緊張と変動を意図的に生み出す存在として、米国の企業や金融機関を捉えることが、日本の国家戦略を構想する際、必要になってくる。
(以下、略)