いまだものいうコネとカネ
東京・中央区築地。電通本社が本社を構えるこの一角には、中小の広告代理店が、それこそ肩を寄せ合うようにして看板を掲げている。業界の頂点・電通に取り入り、どれだけ仕事を回してもらえるかが、彼ら中小代理店の生死を左右する。築地に看板を掲げるのは、少しでも電通の近くにいたいという意識の表れなのだろうか。
そんな築地の一角、電通本社とはまさに目と鼻の先に、G社という小さな広告会社がある。一見何の変哲もない代理店のようだが、その役員の中には、業界人の誰もが瞠目する人物がいる。常務の肩書きをもつN氏。電通の現社長、成田豊氏の実弟である。ところがこのN氏、業界内の評判はことのほか悪い。
(中略)
何ともタチの悪い話だが、これが広告業界の実態でもあるのだろう。コネをつくるためにはカネに糸目はつけない。仕事がとれさえすれば、その何倍何十倍のリターンがある。そんな業界の体質をN氏は巧妙に利用し、うまく立ち回っているらしい。
「Nさんの存在は業界の一部関係者の間ではかなり前から有名な話でした。しかし、誰も表立って問題にしないこともあって、おそらく当の電通トップの耳には最近までNさんの行状についての情報は届いてなかったのではないでしょうか。しかし、最近はあまりにも頻繁にこうした “事件”が起こるので、さすがに成田社長もうすうす感付き始めたようです」(別の業界関係者)
社長の身内の不祥事といっても、もちろん成田社長が責を負う筋合いのものではないし、電通本社にも関わりのない話だろう。コネとカネに縛られた業界の体質が単に表れただけともいえるが、そんな業界の体質を醸成したのが当の電通だったことは否定できない。
「広告業界ほど、コネとカネがモノをいう世界はない。それは政治の世界以上だ」と大手広告会社の元社長は言う。
「親兄弟にはじまって、友人知人、遠い親戚、多少ともコネクションを見いだしたら、それを辿って仕事を取ってくる。その際、先立つものがそこに加味されれば、仕事を取る確率は倍増する。政治家や官僚がそれを大っぴらにやれば汚職になるが、広告業界では、これをやらないと話にならない」
それゆえに、この業界は競って有力者の子弟を採用する。とくに電通には「石を投げれば有名人の子弟に当たる」といわれるほど、有力者の子弟が大勢いる。政治家、大企業の経営者、高級官僚、マスコミ幹部、タレント、作家−−その子弟たちを採用することで、電通は圧倒的な人脈、金脈を維持してきた。
電通が“コネ通”の異名で呼ばれる所以であり、その電通本社の周辺に中小の代理店が蝟集する姿は、コネがモノをいうこの業界の体質を象徴している。
(後略)