記事(一部抜粋):2000年6月掲載

ベルダレポート

裏情報の仕入れルートを失った企業社会のジレンマ

口あたりのいい表情報に頼りすぎた「ネットバブル」崩壊劇

 総会屋の数が激減している。
 日本の「初夏の風物詩」といえば、六月末に一斉に開かれる株主総会と、その場で大音声を張り上げて存在をアピールする総会屋の姿だったが、いまやセピア色に変色、「荒れる株主総会」を探すことのほうが難しい。
「今年の株主総会で発言する総会屋の数は一〇人に満たないんじゃないか。企業と“話がついた”というわけじゃない。警察の締めつけのキツさに音を上げて、みんな総会屋という仕事に“見切り”をつけている」(中堅総会屋)
 そうなった一番の原因は金融機関をパニックに陥れた一九九七年の総会屋事件である。社長が総会屋とメシを食い、総会屋の仕事に配慮を示し、部下に対して「良きにはからえ」と首を縦に振っただけで、社長以下の経営陣は逮捕されてしまった。金融機関は、総会屋の窓口となる総務部を廃止、警察の指導で一切の対応をしなくなった。しかも、総会屋が何かを“依頼”しただけで罪になるという「利益供与要求罪」まで法制化されるに及んで、総会屋の息の根は止められた。
 今も、総会屋や右翼と企業との関係がマスコミを騒がせることはある。五月二二日には、右翼団体の代表が理事長を務める財団法人が新日本製鉄など大手企業一〇〇社から、九八年度だけで約七〇〇〇万円の会費を集めていたことが報じられた。
 こうした報道が出るたびに、「企業は総会屋や右翼と絶縁できていない」と、その存在感が改めて認識されるわけだが、「企業が関係を切るに切れない大物が何人か残っているだけ」(先の総会屋)というのが実情だという。総会屋や右翼団体の“収益源”だった情報紙誌は、これまた警察の指導によってほとんど講読が止められている。
 総会屋や右翼を“窓口”に、企業に駆け登ってくるのが日本の「闇社会」の手口だった。経済のグローバル化に伴い、商取引のルールが世界統一されるなかで、日本固有の存在である総会屋が排除されるのは当然のことだろう。
 しかし、闇社会との窓口である総会屋を切ったことで、企業は裏情報を仕入れるルートも失った。その情報疎外がネットバブル崩壊につながったという意見がある。
「ソフトバンクや光通信の実情、一部マザーズ上場企業と闇社会との関係を、金融機関がキチンと認識していれば、おのずとブレーキがかかり、あそこまでネットバブルが膨らむことはありませんでした。米国におけるネット企業の隆盛やeビジネス(電子商取引)の将来性といった表の情報ばかりに頼り、ネットベンチャーの属性や人脈といった裏情報にまで通じなかったことが、金融界の良識を奪い、それが投資家の異常な買いエネルギーにつながったのです」(証券評論家)
(後略)

 

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