記事(一部抜粋):2000年6月掲載

ベルダレポート

日本の指導層に蔓延するモラルハザード

いまや骨太の正論はかき消え、小手先の細工が横行

 世の中がおかしい。正論が消え、政治・経済・社会などすべての分野で、本質的な議論を避けた問題の先送りや、その場しのぎの小手先細工だけが目立つ。この無責任な姿勢がモラルハザードを蔓延させる原因でもある。
 日本経済は一〇年たったいまもバブル崩壊の影響から抜け出ることができていない。バブル経済がもたらした過大な生産力と雇用、バブル崩壊で生じた資産の不良化という「三つの過剰」の重荷がいまだに整理できていないのだ。
 いま求められているのは、われわれが置かれた危機的な状況を正面から直視し、必要な対応策を積極果敢に実行することだ。そのためには理念と先見性に裏打ちされた大胆な構造改革により国の経済資源を有効に再配分し、非効率を温存するような旧来の仕組みを徹底的に排除することが不可欠だ。
 規制の緩和は参入障壁を撤廃し産業の新陳代謝と効率化を促すが、規制に保護された既得権益が排除される痛みを伴うことへの覚悟も必要だ。本来、これはプラザ合意の時代に行われるべきで、現在まで本格的に手がつけられていないのは大問題。政治の怠慢以外の何者でもない。
 その場しのぎは緊急景気対策の名のもとに行われている財政による景気のテコ入れ策にも見られる。旧来型のばらまき財政の延長で、構造改革の面からは逆行している。国の債務が危機的な高水準にある状況の自覚があれば、もっと効率的な対応があるはずだ。ゼロ金利政策の採用にはやむをえぬ面もあったが、結果として不良企業の延命にも貢献している。金融機関には多額の公的資金が投入されたが、不良債権問題の根本的な解決にはほど遠く、銀行の本当の体力は回復していない。
 国民にとって年金の将来図は重要な関心事だが、このままでは破綻が免れない年金財政への国の対応もその場しのぎに終始しており、先行きが読めない状況が続いている。このような不安を放置しながら、一方で個人消費が伸びないといってもはじまらないだろう。
 昨年一〇月に産業活力再生特別措置法(産業再生法)が施行された。優遇税制の導入や手続きの簡素化により、過剰設備の廃棄や債務の株式化、不採算部門の分社化などを促進し、経済の活性化を図るのが目的だ。
 すでに数十件が申請されているが、最大の眼目であった設備・雇用・債務の三つの過剰の解消に直接むすびつく案件は二〜三件に止まっている。むしろ、減税効果を狙った増資や新規の設備投資案件が目に付く。合理化によるコスト低下や生産性向上はプラスだが、バブル期に多くの企業が合理化投資と称して行った設備投資が結果として生産能力の増加を招き、いまに見る生産能力と需要の大きなミスマッチの原因となったことを連想させる。
(後略)

 

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