日本政府は七月の九州・沖縄サミット(主要先進国首脳会議)で対アジア外交の新機軸を打ち出せるだろうか。小渕恵三前首相の熱意が突然、かき消されてしまった現在、雲行きはどんどん怪しくなっている。もともと、七年に一回は必ずやって来る輪番制のサミットで国家外交の威信を演出すること自体無理がある。森喜朗首相も前首相ほどではないにしろ、「お誕生日会」の主人公のような陶酔に浸りたいところであろうが、日本を見るアジア諸国の目はびっくりするほど冷めている。
先日、外務省筋の対外交流機関とマレーシアの国策シンクタンクの共同会議が開催された。その時、日本側出席者の大学教授が東南アジアの安全保障問題にからんで、「ASEAN(東南アジア諸国連合)の軍事力なぞ、たかが知れており、安保、安保というが、所詮、おしゃべり外交に過ぎない」と決めつけた。このこと自体はいわずもがなの、取るに足らない問題提起であったが、注目を浴びたのがマレーシア側の反応である。
「おしゃべり外交は日本の方だ。断っておくが、軍事力行使のできない日本外交に、我々の地域の安全保障問題を語る資格はないし、第一、我々は何も期待していない」
と猛然と反論してきたのである。この種の発言は今までアセアンの政治家や学者からあまり聞こえてこなかった。やはり言わずもがなで、言ったらおしまいのないものねだりであることはASEAN側も十分知っていたはずである。
日本側には「軍事力なき経済大国外交」への自負があったし、東南アジア側もそれを評価してきた。マレーシアのマハティール首相が推進してきた「ルック・イースト外交」こそ、そのシンボリックな例であった。そのマレーシアからの反発は軍事力なき経済大国外交の抑えがどんどんきかなくなってきていることを示した。