「小沢は躁鬱病だ。つきあいきれない」
二〇〇〇年度予算成立後、自民党執行部の間でこんな会話が交わされている。自民党は自由党党首の小沢一郎に突き動かされた小渕恵三首相の強い求めで、衆院比例定数二〇議席削減を通常国会冒頭で実現し、「小沢の顔を立てた」。ところが、小沢はその後も連立離脱の構えをちらつかせ、協調姿勢が見られない。自民党執行部は苦汁を飲まされる思いが続く。そこで、もともと反小沢の野中広務幹事長代理と、森喜朗幹事長、亀井静香政調会長の間に、「暗黙の了解」(亀井周辺)が成立した。衆院戦前に小沢を除く自由党の主なメンバーを自民党に吸収する。すなわち”小沢切り捨て“である。
「どういうつもりなんだ、小沢は」
二月中旬のある日、秘書からの報告に亀井が思わず怒鳴り声をあげた。小沢の秘書室から亀井の事務所に電話が入り、「亀井の選挙区である広島六区に三月二六日、小沢が自由党候補の応援に入るが、“悪しからず”」と断りの連絡があったというのだ。
亀井は選挙には盤石の自信をもっている。しかし、地元で長い間続いてきた元農水相、佐藤守良の陣営との確執はまだ消えておらず、次の選挙にはその二男が自由党公認で出馬する。亀井が自自連立を推進し、もともと反小沢の野中らを説得してきたのを地元後援会はよく知っている事実。後援会幹部からは「うちの代議士は小沢の味方のはずなのに、なんで向こうの応援に回るんだ」という不満の声が挙がっている。
小沢が自由党候補応援のため三月末までに応援に入った選挙区は亀井のところばかりではない。小沢は、三月上旬、森と石川二区で争う一川保夫の後援会幹部に東京で会い「党として全力で応援する」と約束。野中の京都四区にも足を運んで自由党候補の応援演説をした。森も野中も口にこそ出さないが、「小沢の傍若無人なやり方」(森周辺)に「メンツを潰された思い」(同)だった。
公明党に比べ、自民党と自由党との選挙協力協議は進展していない。自自双方に言い分はあるが、自民党執行部に言わせれば、最大の原因は自由党がすでに候補者全員を小選挙区に出馬させる方針を打ち出し、現職二五人を含む七八人の選挙区を確定してしまっていることだ。候補者は全力疾走に移っており、自民党との調整などできようがない。