記事(一部抜粋):2000年2月掲載

連 載

【検証】メディアの新世紀

テレビの2000年問題

 私たちが毎日のように見ているテレビは、どう変わるのか。ふつうの視聴者が驚くほどの変化が、間違いなくすぐに押し寄せてくるのである。
 マスメディアの二一世紀像を具体的に描き出して行く本連載は、テレビ業界については、NHKと「民放の雄」とされてきたTBSに的を絞って追究してきた。今回からしばらくは、テレビ業界全体の現在と、今後の運命を見ていこう。
 今年二〇〇〇年は、テレビにとって決定的な変化が起きる年である。一二月から、BS(放送衛星)デジタル放送が開始される。
 これは同時に、放送のデジタル革命が始まることを意味し、その革命は郵政省によれば二〇一〇年に完了する。すなわちテレビ放送と言えば、何も言わずともデジタル放送のことを意味する時代の到来である。
 この新時代には、従来は異業種だったテレビと通信業界が融合している。この場合の通信業界とは、電話(加入電話と携帯電話のいずれも)から、インターネット、それに今は報道メディアである通信社(共同通信と時事通信)まで含む幅広い概念である。テレビと通信が分けがたく溶けあった時代は、まさしく「未知の時代」(NHK幹部)となる。
 テレビには今まで、 テレビ受像器の前に座らないと、放送を見ることができない、 視聴者が自分でビデオにでも録らない限り、消えてしまう、 基本的には、放送をただ見せられるだけの一方通行−−という特徴があった。
 視聴者にとって、もはや常識以前の常識として染みついている特徴である。ところが、これが三つとも決定的に様変わりすることになる。
 テレビ局から送り出される情報は、テレビ受像器だけでなく、インターネットを通じてパソコン画面に現れ、モバイル型パソコンを中心とする携帯端末に現れ、さらには携帯電話の小さな画面にも現れることになる。
 またデジタル放送は、情報が消えるのではなくいつでも取り出せる形で残っていく。これはテレビ受像器でも、前述の他の手段でも取り出せる。
 さらにクイズからドラマまで番組に参加したり、自分の知りたい情報だけ特定し切り取って要求し、動画から音声、文字までその場で取り出せる、双方向メディアに生まれ変わる。
 テレビの最も普遍的な特徴が消えるのであるから、二十一世紀に産まれる子供たちはすぐに、いま私たちが見ているテレビを遠い過去の遺物としか考えなくなるだろう。ちょうど私たちが蒸気機関車を見るように。

 

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