国 際
タイで蘇る幻のか「クラ運河」建設
日本の公共事業投資の「海外輸出版」として今、熱い注目を浴びる
アジア通貨危機の震源地となったタイでは、昨年後半から経済の回復基調が言われるようになったが、内情は政府の財政出動によるもので、実体経済は依然として凍てついている。不景気の長期化で国民の間には倦怠感が広がり、モラルの低下が顕著になってきた。若者の売春や薬物利用は珍しくなく、凶悪犯罪も急増している。このままでは再び経済停滞する途上国に戻りかねない。
昨年は日本の宮沢基金から五百八十億バーツ(約一五七〇億円)が貸与されたが、日本と同じく雇用維持のために地方にばら蒔かれ、タイ経済の自立回復には効果が薄かった。経済再生には、一九八〇年代後半から始まった外国投資ブームに匹敵するような起爆剤が必要だ。
そんな中で今、数百年も前から度々浮上しながら実現されることがなかった幻の巨大プロジェクトが持ち出され、起死回生の経済政策としてひそかに注目を集め始めている。それはマレー半島の中部に、南シナ海とインド洋を結ぶ大運河を建設しようというものだ。
運河の候補地は、首都バンコクから四〇〇キロメートルほど南方のマレー半島のほぼ中央部、クラ地峡。タイ湾を臨む東岸の町チュンポンから、西のアンダマン海側の町ラノーンまでの約一〇〇キロメートルがルートのひとつだ。その南方二〇〇キロメートルほどのところに、有名な観光地プーケット島があると言えば、地理的に分かりやすいだろう。
ここに運河が建設されれば、さらに南に位置するマラッカ海峡――昔から海上交通の要衝であり、現在も石油タンカーをはじめとする大小の船舶が往来する同海峡経由に比べて、南シナ海・インド洋間は、距離にして約七百海里(一三〇〇キロメートル)、航海日数にして二―五日も短縮される。コスト的にも、船の規模によって異なるものの、一隻当たり数万ドルから数十万ドルが節約できるようだ。