今年10月21日のことだ。タイの首都バンコク市内にある首相官邸に自動車で乗り入れようとしたマレーシア人が、CD(コンパクト・ディスク)の海賊版の制作と密売容疑で逮捕された。自動車のトランクからは海賊版CD約80枚とともに、複製の原盤と見られるオリジナルCD約千枚が見つかった。
実は、このマレーシア人は3ヶ月ほどの間に40回も首相官邸に出入りしていた。このことから、首相官邸では、海賊版CD制作のためのオリジナルCDが取引されていたと推察している。
民主派のチュアン首相は、歴代軍事政権の権威の象徴であったこの官邸には住んでいない。主が住まない中で、官邸付きの主任護衛官が事件に関わっていたことは間違いないが、あくまで事件関係者にすぎないと思われる。
現在、警察が事実関係を調査中だが、この事件の背後には、大物政治家や高級軍人、官僚、そして警察までもが絡んだ巨大な海賊版CDシンジケートがあるとして、国民の関心をそそっている。
しかし、この事件に単なるスキャンダルだけをうかがってはならない。周辺からは、コンピュータ社会に直面した途上国事情というものが見えてくるのである。