消費不況の象徴のような存在だった百貨店が、にわかに活気を取り戻している。都内の大手百貨店では「五百万円以上のダイヤ、宝飾品や百万円以上の腕時計に動きが見られる。呉服、絵画を求める顧客も増えてきた。バブル崩壊後、長いことなかった現象だ」(関係者)という。
最大の要因は年初からの株高だ。平均株価は1月の安値から40%以上も上昇している。株式の売却益は消費性向が極めて高いといわれる。保有株式の含み益増加も消費マインドを好転させる。そのため「資産効果といえるような傾向はたしかに出ている」(小柴和正・日本百貨店協会会長、伊勢丹社長)
また、首都圏に多く在住する高額所得者にとっては、4月に行われた所得税の最高税率引き下げが消費を刺激する役割を果たしている。輸入車販売の増加などをみても、富裕層の消費マインドに変化の兆しがうかがえる。
しかし、こうした側面だけをとらえて「百貨店という巨大流通組識が全体として好転に向かう」とみるのは早計と言わざるを得ない。小柴会長も「これで百貨店業界が底入れから回復に向うという感じはしない」と慎重に語っている。
大きく低迷しているのが法人需要だ。企業収益の低迷による経費の削減で、取引先への贈答品を廃止したり縮小する動きが広がっている。各百貨店とも、法人向けの外商は、いまだに毎月の売上高が前年比二ケタ近い減少となっている。株高による多少の資産効果はあっても、これで簡単に打ち消されてしまう。